短編小説『カンパイ』
短編小説:『カンパイ』
「うまい!」
と、思わず声が出る。
うだるような、暑い夏の午後。
忙しい日常の、
日々を過ぎた、週末の夕方。
僕は、自宅のリビングで、
大好きな一杯を飲んでいる。
バランタインの、
ジンジャーエール割り。
それに、
クラッシュアイスを入れて、
レモンを添える。
スッキリとした、
けれど、少しだけ苦みを感じる。
それを、僕は好んで飲んでいた。
バランタインは、
スコットランド原産の、
スコッチウイスキー。
茶色の長方形のボトルに、
オフホワイトのキャップ。
ビンの真ん中には、
キャップと同じ色の、
帯が巻かれている。
そこに、筆記体で、
バランタインと書いてある。
その少し上に、
エンブレムが貼ってあって。
2頭の馬が、
猛々しく、立ち上がっている。
シンプルだけれど、
洗練された、ボトル。
そんなボトルを、眺めながら。
一生懸命に、
働いた、身体をいたわる。
はじけまくる、
琥珀色の液体は。
魔法のように、
疲れを取ってゆく。
フ~、と、
息を深く吐く。
「おっ、やってるね。
ぬけがけ君は、ずるいぞ。」
聞き馴染みの良い、妻の声。
「はいはい、
レディのも、作らせて頂きます。」
「よろしい。」
2人の笑い声。
「一週間、
頑張った、2人に。」
「カンパイ!」
幸せは、
案外、身近にあるようだ。
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