短編小説『3LDK』
短編小説:『3LDK』
〈注意〉
18歳未満の方は大人の方と相談の上お読みください。
この作品はホラーです。物語はすべてフィクションです。
『3LDK』
ドンドン。
夫の書斎。
作り付けの本棚。
その向こう側から、
ドンドンと何かが叩く音がする。
東南の角部屋。
3LDKのマンション。
時を同じくして。
子供部屋の女の子。
作り付けの学習机の向こうから、
コツコツという音がするのを聞いていた。
時計は夜の10時を指している。
「ママ、また変な音がする。」
そう言いながら、
女の子が、夫婦の寝室にやって来る。
そこにいた妻も。
クローゼットの中から、
カリカリという音を聞いていた。
ドンドン、コツコツ、カリカリ。
毎晩のようにするこれらの音に。
3人の家族は、悩まされていた。
確かに、
初めの頃は恐怖を感じていた。
けれど家族には、
音の正体に心当たりがあった。
「絶対にこれ、オバケだよ!」
と、女の子が妻に叫んだ。
その声を聞きつけた、
夫が寝室に入って来る。
女の子の口を手で塞ぎ、
「しっ。大きな声を出すな!」
と言った。
3人の心当たり。
それは3体の死体にあった。
夫は、夫を。
女の子は、女の子を。
妻は、妻を。
其々が、
以前の入居者の家族を、
殺していた。
そう。
今の住人は、殺人者たちだった。
きっかけは、些細な事。
小学校が同じ、
女の子同士の喧嘩からだった。
前の住人の。
特に妻からの、パワハラが凄かった。
全ての事に対して、
マウントを取ってくる。
そんな女だった。
女にそっくりな娘と。
それを薄ら笑いで、
見ているだけの夫に。
今の住人家族は、
精神を病んでいった。
そうして。
3LDKの。
不可思議な音のする、
其々の部屋で。
3人は、3人を殺した。
犯行現場を、そのままに。
親子は、必死に逃げた。
それから、3日。
殺人事件のニュースは、
一向に入ってこない。
事故物件にもならずに。
まるで何事も無かったかの様に。
3人が罪を犯した部屋は、
普通に貸し出されていた。
それを、恐怖に感じた犯罪者家族は、
その部屋を借りる事にした。
ありとあらゆる所を調べまくった。
何もない。
犯罪の痕跡は、何も無かった。
身の毛がよだつような。
ただ、美しい。
3LDKのマンションが、
そこにあった。
ドンドン、コツコツ、カリカリ。
その音と共に。
家族は、少しずつ狂っていった。
1ヶ月後。
家族は、悲しい末路を遂げる。
いや、悲しくはないか。
どうせ3人共、殺人者だった。
その後の3LDKのリビングで。
「あの殺人者家族。
あんな死に方、奇妙ですよね。」
若い茶髪の女が、そう発した。
「本当に。でも部屋のカメラには、
他の誰も写ってなかったからねぇ。」
太鼓腹をナデまわしながら、
中年の男が答える。
「自分で自分の首を絞めて、
死ぬなんて。しかも3人共ですよ。」
「ふむ。そうですなぁ。」
「特に奥さんの首。見ましたか?」
「ああ、あれねぇ。」
「誰か別の女性のネイルが折れて、
突き刺さっているなんて。」
「まあ。妙といえば、そうですけどねぇ。」
ピピッ、ピピッ。
と、スマホのアラーム音が鳴る。
「もうそろそろ、溶けたでしょうか。」
そう言いながら。女は浴室に移動し、
それに男も従う。
浴室のドアを開けると、
肉が焼けた様な、焦げ臭い匂いがする。
バスタブでは。
コポコポと、水面が泡立っている。
「この薬品。匂いだけどうにかなれば、
大発明なのに。」
「特許でも、取りましょうかねぇ。」
「けど、骨は残るんですよね。」
「ふむ。まだまだ開発の余地ありですなぁ。」
女は料理用のトングで、
バスタブの頭蓋骨を掴むと。
洗い場に敷いたブルーシートの上に、
順序よく並べてゆく。
「さっ。納骨、納骨。」
そう言うと女は、骨を中心に。
ブルーシートを器用に巻く。
それを持って、
2人は書斎に移動する。
作り付けの本棚の上を、
金槌で打つ。
キイッ、という音と共に、
本棚が手前に開く。
隠し扉の向こうには、
約40cm程のスペースがある。
そこには、
幾つかのブルーシートが積まれている。
その上に。
抱えてきた、ブルーシートを置く。
そんな作業を、あと2回。
子供部屋の学習机の裏には、
女の子を。
夫婦の寝室の。
クローゼットの裏には、
妻を。
其々、納骨?する。
全ての工程を、
流れ作業的にこなした、女と男は、
元のキレイな3LDKにして、
部屋を後にした。
3日後。
「まぁ、素敵なお部屋だこと!」
夫と妻。そして、小学生の女の子。
3人家族が、3LDKを。
あの部屋を、内見している。
「そうでしょう!こんなにいい物件、
そう無いですよ。」
満面の笑みで、不動産会社の女が答える。
それを聞いた、大家の男が、
「本当に!」
と微笑む。
内見している家族が、
幸せそうに、笑いあっている時。
不動産会社の女と、
大家の男は。
一瞬だけ、視線を交錯させ、
ニヤリ、と笑った。
3LDKのリビング。
大きめの窓から。
差し込む太陽の光に。
不動産会社の女の髪が。
より茶色に光り、
それを眺めながら、
大家の男は、
太鼓腹をナデまわしていた。
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